2020年5月26日火曜日

帰り道は遠かった・・・・・・後編

前編


細い林間の道を進んで行くと、右の谷からの道と出会った。
左へ行く。上がったり下がったり、なかなか楽しい。だれにも会わない。気楽に走れる。S字を描きながら上っていくと斜度が少しキツクなり、あわててアクセルを開く。が、遅かった。細い一本の木の根が越えられない。バックしてやり直そう。ブイ~ン!が、全然勢いがつかない。それでも無理矢理アタ~ック!(なんか、さっきも同じ事を書いたような・・・)気を取り直して3回目のトライ。先ほどの事もあるので思いっきりバックして、と。今度こそブイ~ン!と。スピードが・・・・・・出ない。
「クソッ!何でやねん!」(注:ミニ知識 参照)
終わった。全て終わった。トライアルを始めて十数年。あの岩を越え、あの坂を上りこの岩ではひっくり返り、この坂ではまくれ、その岩ではステップを曲げ、その坂ではレバーを折り、あっちの坂ではタンクを凹まし、あっちの坂ではフェンダーを割った。それもこれも今となっては思い出だ。こんな細い木の根が越えられないなんて。もう全てが終わったんだ・・・・・・

さてと、結局押す事にする。
またも力仕事。飽和状態のTシャツの表面を、汗がダラダラと流れていく。Gパンもパンツもビチョビチョ。よくこれだけの汗が出るものだ。必死で押し上げ、ヘタヘタとその場に座り込む。キツイ。喉が焼ける。


「エライ事になってきたなあ」一刻も早く百井に行って、水分を補給しないと・・・。
もう、楽しいトレッキングどころではない。景色を見る余裕もない。必死で走る。天ヶ岳の頂上まで。
天ヶ岳の頂上は見通しが悪く、眺望はきかなかった。急ぎ下りに向かう。百井峠から金毘羅山への尾根道へ出て左へ。ハイカーが多いのだろう、良く踏まれた道が続く。ほどなく舗装路に出た。ここまで来れば百井はすぐそこ。ぶっ飛ばす。あそこだ!バイクを停めるのももどかしく、自販機に百円玉を入れ・・・?
あれっ???電源が切れている。店のガラス越しに声をかけてみるが返事がない。誰もいない!?そんな馬鹿な!!もう気が狂いそうだ。ふと店の横の小さな水路に目が止まる。きれいな水だ、飲めそうだ!イヤ、待て。農薬が流れ込んでるかもしれない。落ちつけ。
もう一度店の方に目を戻す。入口の横に台所用の流し台が置いて有る。粗大ゴミらしい・・・エッ、蛇口がついてる。
まさかと思いながらも期待を込めて蛇口をヒネッた。出た!水だ!生ぬるい水が徐々に冷たくなっていく。ウマイ!と書きたいところだが少し飲んだところで急激に腹が痛くなり、そのまま固まってしまった。強烈な痛みだ。しばし無言。一分ほどで痛みが治まってきたので少しづつ水を飲む。
しかし、たらふく飲んでも喉が渇いているような感覚だ。それでも、顔と手を洗い、ひと心地がついた。さあ、山を下って飯を食おう。
百井峠を下って鞍馬街道へ出る。岩倉か白川通り辺りで食うかと考えながら走っていると、旧花背峠を思い出してしまった。この峠もいずれ走りたいと思っていた道だ。喉の渇きも治まったし、ついでにこの道も走ってみるか。入口を見ると林道だ。楽に上れるだろう。

●ミニ知識
ご存知の通り現在の花背峠が出来るまでは、京の都と小浜を結ぶ若狭街道の重要な峠のひとつであった。

小さな石がゴロゴロしているところを少し上ると、雲行きが怪しくなってきた。良く滑る丸太橋を渡り、藪をかき分け、気がつけば沢の中を走っている。入口を間違えたのか?これはただの山道じゃないのか?少し山道を走るとコンクリートで出来た小さな砂防堤が現れた。右にラインがあるが、手前の岩が沢に落ちそうになっている。岩を動かしラインを整える。高さ30~40センチの段差だが左の沢が気になる。こんなところが本当に若狭街道なのだろうか?とりあえず、この砂防堤を越え、行ける所まで行ってみよう。少しビビリながら砂防堤を越え、沢を少し行くとまた道らしくなってきた。土の斜面を右に左に上り詰めて行くと最後が上がれなくなった。数本の杉の急斜面をタイトにS字を描くルート。これは無理だ。バイクを停めよく見ると、右手の斜面に新しい道が出来ている。しかし、こちらもZ形になっており、ターンは無理。でも何とかなりそうだ。またまた押し上げることにしよう。仕方がない。今日は厄日なのだと自分に言い聞かせた。
また喉が渇いてしまったが、旧道らしい面影が感じられる道に出た。やっぱり若狭街道だ。嬉しくなり峠へ急ぐ。峠には大きな杉と祠があった。
しかし、現在は別所町と芹生から、車で入ってこられる峠になっており、長き歴史を秘めた旧街道の峠の風格はない。
このところ、北山では大規模の林道工事が進んでおり、旧若狭街道や旧高浜街道の趣のある峠が壊されているらしい。非常に残念だ。
さあ、今度こそ帰ろう。別所側へ下り新花背を越え鞍馬街道を下る。途中の水場で水分を補給。若いアベックが、汗だくドロドロの俺を見て視線を逸らせ後ずさりする。さもありなん。他人が見ると完全に不審者に見えるだろう。悲しい事に、そういう目で見られることには慣れている。そんな自分がいとおしい。今度は腹痛を起こすこともなく、ガブガブ飲めた。やっぱりいとおしい。
市原まで下り、二軒茶屋の分かれ道を幡枝方向へ。2~300メートル走ったところでガス欠になってしまった。HRCのタンクにしているのでリザーブがない。今日は色々楽しめる。
この辺りの地理は不案内で、近いガソリンスタンドが分からない。とりあえず車の少ない道を押していこう。
幡枝辺りから、住宅と畑の中を通って広い道に出たが何もない。広い道をしばらく東に行き、右折した。宝ヶ池?前方にトンネルが見える。上り坂だが、今日押してきた山道に比べれば舗装路の上りなど屁でもない。トンネルを抜け坂を下り、東西の広い通りに出たがスタンドは見あたらない。東に向かって押して行くがスタンドどころかジュースの販売機もない。今日は本当に厄日だ。
やっと道路の反対側に自動販売機を発見!お懐かしや自販機さま!ここでジュース3本立て続けという荒業を使う。後は何か食い物が欲しい。住宅街を南へ押していく。パン屋ぐらいは有るだろう・・・
しかし、見事なまでに何もない。コンビニも、パン屋も、駄菓子屋も・・・。静かで環境のいい住宅街なのだろう。でも、なんだか何もないところを選んで押しているようだ。足が痛い。たいがい疲れた・・・。
やっと向こうの方に賑やかな大通りが見えてきた。通りの名は北大路通。その大通りの角にスタンドはあった。
幡枝から北大路通まで、発見できたのはジュースの販売機一台のみ。我ながら見事だ。自分で自分を誉めてやりたい。
結局、クタクタになった胃袋では食欲もなく、何も食わずに懐かしい我が家、山科に帰ったのであった。


6 件のコメント:

ブラック さんのコメント...

絵、うまいやん!

buratto28go さんのコメント...

ブラックさん、そこっ!?

でも、有難うございます。( ^ω^)

Takesan さんのコメント...

むむ、確かに絵は上手い!
もっと描いた方がエエです。
でも、もう少し美しい素材を選んで下さい。

buratto28go さんのコメント...

Takesan、見たのね!
トライアルで鍛え上げた美しい私のナイスバディを!
1000円です。(笑)

イーハトーブ さんのコメント...

まさにあるあるですやん。
このエッセイおもろいです!!

buratto28go さんのコメント...

イーハトーブさん、有難うございます。
でも、こんな事があるあるではあきません。
何度か繰り返していたら死にまっせ。(笑)